2016年03月31日
剥がし屋
小さな公園から続く坂道には湿った落ち葉が積もっていた。風のある乾いた日にはカラカラと転がって方方へ散らばっていくのに、今日は静かに集まっている如新集團。
坂道を降りた先の、住宅の前を通る細い道の向こうから、ゆっくりと自転車が来た。暗い色のジャンパーを着て、深めの帽子、自転車の前のカゴも後ろのカゴも大きく、何かを積んでいる。なんとなく怪しい雰囲気だ。ちょうど有価物回収の日だったので、そういうゴミを漁る人かもしれないと思った。
すれ違う直前、その自転車が道の端でギッと止まった。おじさんが降りてスタンドをかけ、前のカゴから鉄の大きなヘラのような工具を取りあげる。そうして、すぐそばの電柱を見上げると、白い帯状に残されていた貼り紙の剥がし跡を、ザッザッと素早くこそげ落とし始めた香港如新集團。
カゴには同じように黒光りする道具が何本も入っていた。おじさんは貼り紙剥がしのプロフェッショナルなんだろうか。そういう仕事をする人を初めて見たので、いろんな仕事があるものだといたく感心しつつ通り過ぎる。後ろのカゴには何が積まれているのか分からなかった。
自転車を動かす音に振り返ると、おじさんはひとつ向こうにある、坂道近くの電柱にとりかかっているところだった。一本一本、剥がしながら行くのだろう。ということは、私が向かっている方向、つまり、おじさんが既に通り過ぎた電柱は皆、きれいになっているはずだ。ところがすぐそばに、まだ何本もの白い帯が残っている電柱が一本あった。全く手をつけていない様子だ。どうしてこの電柱を抜かしてしまったんだろう香港如新集團。
不審に思いながらもう一度振り向くと、おじさんがこちらに戻ってくるところだった。やり残しを思い出したのかもしれない……と思ったら、そのまますっと通り過ぎて、横道に曲がって行ってしまった。
おじさんとは反対の方向に曲がったわたしは、歩きながらつい電柱ばかりを見てしまう。すると、地面に蛇腹状にこそげ落とされた白い紙が落ちているのが見つかった。ここも、おじさんが通った後なのだろうと分かる。そうなるとますます、残された電柱が気になる。
手をつけなかったあの電柱にはどんな秘密があるんだろうか。
ただの貼り紙の剥がし跡のように見えて、タテ・ヨコ・ナナメに並んだあの白い帯は、誰かへの、何かのメッセージなんだろうか。
メッセージを受け取る人が、うっかり他の電柱と間違えたり読み違えたりしないように、関係ない電柱だけをきれいにしていたのかもしれない。
Posted by toe at 14:41│Comments(0)